[雷の話]
効きの悪いクーラーと寝苦しい夜に悩まされています。
皆さんいかがお過ごしでしょうか? 早く高い山に逃げ出したいなと思いつつ、ちょっと行き過ぎかなという気持ちも有り ます。と言うのは、7月の山行日数は20日間でした。この8月もおそらくその位に なってしまうでしょう。
さて、夏山と言えば高い山でもお天気が続き、登山のベストシーズンとされています が、それでも8月も中旬頃になると、夕立や雷が怖い時期でもあります。夕立は蒸し 暑い夏を涼しくしてくれて私は結構好きですが、どうも雷という奴は心臓に良くあり ません。今更おへそを隠す人もいないでしょうが、今日はちょっと、雷の話をしまし ょう。
夏の雷というのは、地上の暖かい空気が上昇気流となって上空に上り、上空の冷たい 空気と触れたときに起こる”熱雷”といわれているものがほとんどですが、特に山だけ でなく、地上でも当然遭遇する事があります。
その雷の移動距離は、1~10Kmの範囲にわたります。たとえば雷鳴が聞こえてくる 距離が約10Km程度ですから、どこか遠くでゴロッっと聞こえたその次に自分の頭の 上に落ちる可能性は充分ある訳で、たとえばゴルフやテニスなどの野外スポーツをし ていて、音が遠いのでまだ大丈夫だと思いそのまま続けていて落雷事故に遭遇した、 という事例も少なくないです。自分が野外の、しかも広い場所等にいた場合は、直ぐ に避難した方がいいでしょう。また、雷の活動最盛期の、落雷と落雷との時間的間隔 は約1分で、たとえば半径100m以内に続けて落雷する確率は低いので、一度落ち た場所は比較的安全かな、と言うことになります。山で遭遇した場合は特に、雷雲も 確実に移動していますので、その辺の同じ場所に落ちない確率もより高くなります。 また昔よく、雷が鳴り出したら、金属を身につけている場合は直ぐに捨てるとか言い ましたが、これは実は間違った安全法です。それは人間のからだその物が小さな金属 よりも多くの落雷を引きつける作用があるからで、雷は金属を身につけているいない に関わらず体に落ちてきます。そして実は金属片を身につけている事で、より厳しい 状況から助かる事もあります。体に雷が落ちた時にその身につけている金属片部分周 辺に”部分放電”が発生して、火傷をしたりしますが、それらは二度以下の浅い熱傷で 容易に治癒することが出来ます。そして実はそれにより、致命的な体を流れる電流 (体内伝導電流)が減少するという研究報告があります。つまり金属片は捨てても意味 がないばかりか、身につけている事により、身体への直撃雷による致命的な傷害を減 少させる効果がある訳です。
落雷で死亡事故になるのは直撃あるいはごく近くに落ちた時で、落雷電流が”伝導電 流”となって人体に流入する時に限られます。ちなみに、皮膚、衣服、ゴム引きのレ インコート、ゴム長靴等々、すべて落雷電流を防止する絶縁(ぜつえん)効果は無く、 直立する人体は落雷に対して、約300オームの導体として作用します。
金属、非金属に関係なく一番危ないのは頭より飛び出た突起物などです。雷の音がし ているのに、クラブをスイングして振り上げた瞬間とか、ラケットを振り上げた瞬間 とかが、まさしく危ない瞬間です。先ほど話したように、雷は遠くに聞こえていても 実は真上にいる事があるからです。
さて、雷に遭遇したときは、どんな場所に避難したらいいのかというのは、かなり難 しい質問といえます。つまり野外で100%安全な場所は無い訳ですが、まあ、ここ は特に危ない場所というのは、樹木の近くや避雷針の付いていない高い建物(クレー ンや煙突)、それらの近く”2m以内”は、たとえば周囲に何もない平坦地よりもさら に危険が増します。これは、それらの突起物に雷がより落ちやすい事がひとつ。 そして、落ちた雷が近くにいる人間に”二次放電”(側撃)してしまうからです。 これは、より致命的な傷害になります。これはテントのポールなどにも当てはまりま すので、周囲に何もない平坦地に立てたテントの中に避難することも危険な自殺行為 となります。また、その二次放電の場所の近くに居る人数が増加すると、死亡者、重 傷者が増加し、落雷あたりの災害も増加します。一次被雷物体から2m以上隔離して 居れば傷害は軽傷となります。つまり、たとえ恋人同士でも、抱き合っていたりしな いで、彼や彼女の為にも、突き放して1人になった方がいい訳です。また隣に立ちす くんでいる彼又は彼女よりも、体勢を低くするとより自分への被雷を避けられます。 この辺はあまり深く考えないで、まず自分が助かる事を第1としましょう。さて、 では地面に落雷した場合の二次傷害はどうでしょう。落雷による、地表の伝導電流が 人体に及ぼす効果は殆ど認められません。落雷に伴って地表に稲妻(沿面花火放電)が 走る時、たまたまその線上にいると、地表に接近した身体の部位に火傷をしたり、 運動障害等を生ずることがありますが、これらの傷害は一過性で、時間とともに回復 します。
この辺で話をまとめましょう。”雷に遭遇したらどうするか?” 野外では、金属製品は別に付けたままでいい。傘や釣り竿その他の突起物をからだよ り高く突き出さない。テントのポールや、その他高さ4m以下の物からはただちに離 れる。近接落雷直後の1分間を使って移動し、危なくない空間に避難する。高い物体 (4~5m以上)を探し、その保護範囲内に移り姿勢を低くする。 (保護範囲内→2m以上離れて、その物体の頂上を45度以上見上げる範囲) 樹木の 場合は、幹だけでなく、枝や葉っぱ等から2m以上の距離をとって出来るだけ姿勢を 低くする。送電線や配電線がある場所では、その真下に移動して避難する。野外の場 合は100%安全な場所は無いので、建物を探して中に入る。呼吸・心拍の止まった 被雷者が出たら、真っ先にその救出にあたり、人工呼吸と心臓マッサージを実施し、 呼吸・心拍の回復に努める。……と、このようになります。
とにかく、野外で雷に遭遇したら、おへそを隠すだけでなく、一刻も早く安全な場所 に避難する事が大事ですね。皆さんも気を付けて下さい。
山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた来週
以上、
FMブルー湘南・川名匡の山に遊ぶ 放送原稿より